こんにちは、btです。
別エントリで簡潔にまとめてあるのでそちらをどうぞ。このエントリは長文です。
Fidelity Custom Earphones(in ear systems.)から出ているカスタムIEMの上位モデルであるtriplesを注文して手元に到着したのでレビューします。
(レビューは日本最速?日本以外でも持ってる人あんまりいなそうですね)
注:5月2日現在、須山補聴器にて周波数レスポンス測定している都合一時的に手元にありません。
実は到着してから既に一週間経っているのですが、ちょっとこのFidelity triplesの出来が非常に良く、しっかり聞き込んでからレビューしようと思っていたため少し遅くなりました。
注文方式としてはカートではなく、オーダーシートを送付するタイプで記入箇所が多く面倒です。ただ、サポートは非常に良く、すぐにメールが返ってきます。現在だと、14-20日で出来上がるみたいです。自分の場合は製作期間は正味2週間で、ターンアラウンドはそこそこ早いようです。
何より、LiveWires(EarPeace LLC)と違って期日を守ってくれます。低価格カスタムIEMながら、このあたりしっかりしているので安心できます。
標準のオーダーシートには無い色の組み合わせですが、シートの余白に書いたらその通り(右:シェル赤 プレート黒 左:クリア)になってちゃんと送られてきました。

定番のPelican 1010ケースにwaxループと本体が入って送られてきます。
ケースにはシリアルナンバー、名前等が記入されたタグが付けられてきます。単純でコストもかからない方法ですが、PA機材に埋もれてもすぐに判別できてちょっと関心してしまいました。
シェル内側にはシリアルと名前がプリントされます。見やすさ重視でUE、FreQなどのようにエッチングではありません。
他のカスタムと大きく違うのは360°回転可能なケーブルと、ケーブル接続部分です。UE,FreQ,須山カスタムがフロントマウントでFidelity Customはトップマウントです。
では細かく見ていきます。
1,シェル
上記の通り、構造上ケーブルのコネクタがトップマウントなのでシェルサイズはフロントマウントに比べて小さい(というか低い)です。ゆるい、きついとかではなく耳からでっぱる部分が小さいという意味です。

その為、慣れるまでは付け外しに時間がかかるかもしれません。
低価格カスタムで気になるシェルの作りですが…
非常に素晴らしい!もちろん値段を考慮した上ですが、それを考えてもかなり丁寧に作られています。素材の違いから須山カスタムのようなしっとり感はありませんが、シェルとフェイスプレートの接合部分も丁寧に処理されており、外耳道部分も当たる部分は綺麗に洗ってあります。かつ、遮蔽が得られるように盛ってあり密閉に関しては完璧です。
面白いなあと感じたのが、ヘリクス部の処理。須山カスタムでは付け外しを考慮して結構カットしてしまうのですが、Fidelity Customではかなり大きめに作られており、それにより高い密閉と維持力を付与しています。しかし当然ですが付けにくくなります。このあたりは思想の違いでしょうね。
某補聴器会社代表かつMacバラシの有名人曰く、しっかり作ってますねということでその道のプロから見ても良い評価みたいです。
シェルに関しては特に注文を付けなかったものの、自分としては完璧な出来です。ただし、一般的なカスタムに比べるとかなりきつめに作られていますので
音楽鑑賞用途ならばもう一回り小さくオーダーしたほうがいいでしょう。
自分の持っている中で最もきついカスタムは須山カスタム335Lで、これは低音の為に限界まで太くしてくれと頼んで作成してもらったものですがこれよりきつい部分があります。
ただ、ここでもしっかり仕事してんなー、と感じたのですが単純に全体が大きいのではなく遮音に重要な部分を大きくし、維持力を付与する部分は割と控えめになっているため疲労感は遮音性のわりには低いです。
ただし、いずれにせよ大きめであることには変わりありませんので苦手な方は注文前にMs.Nealに聞いてみて下さい。きつめに修正するのは簡単ですが、ゆるくするのは時間も手間もかかりますので。
装着時はケーブルを下に向けて口を開けて反対の手で耳を後方に引っ張りながら耳と目の中間に向かって差し込むと一発で決まります。
須山カスタムが何も考えず挿せばいいのに比べ手間ではありますが、この密閉感と外れない安心感は良いです。
シェル全体としてはまったく問題ないというか、完璧です。恐らく新興といえどLiveWires時代のノウハウの蓄積があるのではないかと。
なんども言いますが、装着感重視の人には厳しめのサイズではあります。私は遮音性が第一なので非常に好感を持ちました。オーダーシートといい、どちらかというとプロ向けな雰囲気を感じます。
2,付属品
Pelican 1010ブラックにネームタグ、waxループのみです。
低価格ということで割り切っていますが必要なものは全てそろっています。あ、代表のMr.Nealが経営しているっぽい他の会社の広告がはいってましたw
3,音質
結論からいうと、非常に良くこれが$800でも間違いなく私は購入しています。
正直言って、新興メーカかつ、購入報告が無かったのでネタとしてオーダーしてダメだったらバラせばいいや、程度だったのですが、聞き込んでいく内にそう思った自分が恥ずかしくなってきました。
FreQなんかは完全にコンシューマー向け低価格カスタムという割り切りがあったように感じましたが、Fidelity Customは作り手の理念、思想なんかしっかりしているように思います。
triplesの構成は名前からも分かるとおり3ドライバーですが、統合型2wayのTWFK(Westone3のミッドハイ、須山カスタム435のハイ、ES3Xのミッドハイ、FreQのミッドハイ、オーテクCK-10、JAYS q-JAYSとかに使われてる人気のBA)を使用していないロー、ミッド、ハイ完全分離のタイプです。
ロー側はKnowles CIで、ミッドは不明ながらもサイズからCIシリーズと思われます。ハイ側はKnowles EDシリーズっぽいですが…
見る前から音で思いっきりKnowles系だと分かります。構成としてカスタムの方のUE 10-Proと同じようです。
須山補聴器にご協力をお願いして周波数レスポンスを測定してもらいましたが、やはりUE 10-Proにかなり似ています。

(大きく見える銀色のレシーバーがロー側レシーバーのCIです)
3way3unit3BAで、ラインナップ上最も大きいレシーバーを二つ乗っけているのでユニバーサルモデルでは不可能な構成です。というかカスタムでも耳の小さい方は作成不可かもしれません。私の耳は大きくないものの、外耳道カーブも少なく全体的なサイズも小さくないので日本人としてはわりかし作りやすい部類に入るそうです。(須山補聴器、Fidelity Custom Earphone両方に言われました)
小さめの方は事前に問い合わせたほうがいいかもしれません。特にMCX端子を使ったコネクタ+トップマウント構造のせいでスペースが取りにくいので、須山カスタムで5レシーバタイプが普通に作れる私の耳ですら結構ギリギリ感があります。
あまりデータとかで語るのも不毛な気もするので以下は感じたままです。
一応、Fidelity Customとしてのうたい文句は、「(LiveWires T1を基準にして)さらに豊かで量感あるロー、より正確なミッド、そしていままで同じ高音」だそうです。T1が高音よりなモデルでしたので、弱点を補った感じでしょうか。
注:全体的に
ドライで分析的な音です。原音再生ではなく、あくまでステージ等騒音環境下でのモニタリングに向けた音作りに感じます。PAやSEにとっては細かな音も拾える驚くべき解像度と、各プレーヤに必要な音を届ける余裕あるローのヘッドルームを実現しています。
人によっては分析的過ぎたり、フラットでつまらないかもしれません。明らかに人間が聞き取りやすいようにチューニングされているので、原音再生命の人や、クラシックオンリーの人は須山カスタム435をオススメします。
テクノ、ハウス、エナジー系、DnBを良く聞く人や、PAの方等業務用途ではかなりオススメです。かなり絶妙なチューニングだと思います。
低音
量感たっぷりでありながら芯のある低音で、このモデル最大の特徴かもしれません。非常にタイトでありながら量もしっかりあり、キレが凄く良いです。UE-11proより量自体は多少少ないものの、制動がしっかりしておりタイトです。UE-11のようなもやつく感じの低音ではありません。このあたりは須山カスタム335Lに似ています(非常にタイトでありながら量も多い)ただ、絶対的な量は、335L、UE-11に比べると少ないですがその分ミッドにかぶることもないです。うねるベースラインとキックの表現が非常にうまく、大変気持ちよいです。高い遮音性とあわせてベーシスト、ドラマーの方のモニタリングにも使えるレベルです。
Late 2008ver.のTF.10proと比較するとFidelity Custom Triplesのほうが量も多く、タイトさ、質感、キレなど全てにおいて勝っていると断言出来ます。
中音
ミッド用にドライバーを追加しただけあってしっかりとボーカルを聞き取れます。前述の通り、ドライな音なのでVoがメインな曲では少し分析的すぎてつらないかもしれません。しかし後述しますが、それを補って有り余る魅力が実はミッドにあります。立ち上がりが早く、余計な付帯音が無くモニタリングには向いています。
高音
もともとハイに定評があるT1ベースということで、期待していましたが期待を裏切らず鮮やかに鳴らしてくれます。LiveWires T1ではS行子音が刺さるとか痛いとかいう報告もありました。
Fidelity CustomのTriplesではクロスオーバーが変わったのか、詳しくは分かりませんが刺さったり、シャリ付いたりはありませんでした。というか刺さるギリギリまで出してる感じです。このあたりはチューニングの妙です。ER-4Sを使ってる人でもまずまず満足できる高音ではないかと。
高音が強めなBA機というと、オーテクCK-9 CK-10、須山カスタム435(midのほうが強いけど)、4Sが頭に浮かんでくるんですが、それらは大体線が細いか、制動感が無いか、硬質な高音だったりします。使用しているBAの特徴でもあるんですが。まあ、元々10k以上はバランスドアーマチュアは苦手ですし、聴覚上10kまで出てれば高音出てると感じますし。
話がずれましたが、一番近いのは4S…のような気がします。鮮やかさと制動感が凄く、4Sの細く硬質な高音を太くした感じです。伸びは他のマルチドライバに負けます。10kHz付近にかかる音は気持ちよいですが、14-18kHzの超高音は心許ないかも。20kHzを超えると全然出てません。
(余談ですが、私は22Khzくらいなら余裕で聞き取れます。可聴域は20Hz-24KHzで、赤ちゃん以上犬以下だそうです。感度も150Hzまでは若干悪いものの187Hzより上は完全にフラットかつ測定限界まで感度良いそうです。高周波が聞こえても悪いことしかありませんが… まあ、ドンシャリ好きだけど耳自体の特性は非常にフラットということで。)
高音自体は他のカスタムに無いような表現力を持ちつつも、刺さることもなく守備範囲は非常に広いように見受けられます。倍音成分の表現もわりと普通ですが、UE-10pro、須山カスタム224、須山カスタム435と比べると13Khz付近では違和感を感じることも。10kHzまでならばデータ上でも聴覚上でもUE-11よりも優秀です。
伸び自体はもう少しあったら完璧なんですが、ワイドレンジシングルはともかく、他のハイエンドマルチドライバ機種に比べてもそこまで劣るものではありません。例外的にカスタムじゃない方のTF.10proはカスタムのハイエンド機種よりもハイの伸びが良いのでそれに比較すると劣ります。が、通常の音源ではそこまで出てないかそこまで聞き取れるのは聴力の優れた人だけだったり、音楽の構成上10kHz以上はあまり重視しない場合が多いのでハイの伸びよりもどういうバランスで出ているかが重要だったりします。
もう少し出ているとミックスダウン時の高域ノイズ探しとかに使えそうですが、普通そういう場面ではIEMは使いません。どこにでもあるCD-900STかYAMAHAのあのスピーカ(名前失念)を使います。Altecのスピーカ使ってる気合い入ったスタジオで仕事してみたいもんです。(そういや須山補聴器銀座店 5Fに綺麗なAltec A7がありましたが、恐ろしい値段するような…)
恐ろしく話がずれました…
文字制限の都合で次エントリに続きます。次の次のエントリで簡潔にまとめますので、3行でおkな人や時間無い人はそちらをご参照下さい。